ターコイズの聖地・ネバダ州で３大ターコイズと呼ばれている鉱山がある。ナンバーエイト、ローンマウンテン、そしてランダーブルーだ。

中でもランダーブルーは、1973年と発見された時期は新しいものの、採掘されたのは実に90ポンド（約40kg）。当然入手しにくく、今や“幻のターコイズ”とも言われている。

その特徴は、青い石に鉱物が描く線が入り込むのではなく、小さな青い石の周りに黒い鉱物が集まるという、ターコイズの形成過程の違いだ。様々なターコイズの中でも“蒼らしい青”と形容できるだろうか。ターコイズの知識がない人でも惹かれる魅力に溢れている。

古代ローマを象徴するリング

リー・ヤジーをはじめとするナバホの巨匠たちは、そんなランダーブルーの中に精霊の息吹を感じ、魂を込めた。ネイティブ・アメリカンならではの自然由来の幾何学模様や植物、動物の羽、太陽などを模したデザインが、ターコイズを華やかに見せる。

一方、このリングのテーマは小寺康友が考える「古代ローマ時代の装飾品」。ゆったりとしたドレスをまとった貴族たちは、リング、ネックレス、ブレスレットなどの装飾品を身につけることで、視覚的に彼らの権威や品格を示した。長い歴史を経てその思想はエジプト、ペルシア、インド、さらにはシルクロードに乗って中国も含めて、世界中に広まっていった。

小寺がそんな壮大な歴史を想像したのも、このランダーブルーの深遠な魔力を感じさせる存在感があればこそだ。光の射す角度や見る方向によって表情が変わり、触れた者すべてを虜にしてしまうような、完璧なマトリックスをたたえている。

「古代ローマ時代の装飾品をみると、シンプルな造形の中に存在感のある宝石があつらえてあるものが多い。長い歴史の中で代々受け継がれてきたかのような権威性や絢爛さは、このランダーブルーでなければ生まれなかったでしょう」

ターコイズをしっかり支えるシンプルなシャンクは、石の大きさに合わせたメンズサイズ。22Kを用いることで、その手に絢爛なイメージを印象づける。インディアンジュエリーらしい無骨さで“石を守る”よりも、石そのもののヌーディーな美しさを優先したリングとも言える。

ランダーブルーの行方

このランダーブルーとの出会いは、小寺が米国に留学していた20代前半の頃。とある街のショッピングモールを訪れたときだった。

「ランダーブルーの採掘権を所有していたランダーブルー・ターコイズ・コーポレーションの創業メンバーのひとりであるボブ・ジョンソンという人物が、亡くなる前にある人物に手持ちのランダーブルーをすべて譲っていることは、業界では有名な話です。受け取ったジュエリーは農場の小屋に隠され、部屋いっぱいにランダーブルーがあるという話でした。

そんな頃、とある田舎のモールで何気なくインディアン・ジュエリーの店に入ったら、10粒くらいのランダーブルーがあった。店主の女性に『もっとあるの？』と聞くと『ある』と言う。一般的にターコイズディーラーは、10個持っていたら100個あるんです」

当時小寺は、一介の従業員としてジュエリーショップで働いていたため、独立して資金を得るまでこの店の存在を秘密にしていた。そして、独立後に再びその店を訪れると、当時よりも多くのランダーブルーが陳列されていたという。

すぐに買えるだけの石を購入した小寺に、店主は「もっとあるけど見にくるかい？」と声をかけてきた。半信半疑でついていくと、10坪ほどの小さな小屋の中がすべて、ランダーブルーで埋め尽くされていたという。

「この女性こそ、ランダーブルーを譲り受けた人物の未亡人だったことが、のちにわかりました。それから10年かけて、少しずついい石を購入していきました。このリングはその中でも非常に整ったスパイダーウェブになっている、初期に購入したランダーブルーです」

誰もが振り返る“美人”の石

ターコイズの原石は、実際にカットしてみなければそのベールの奥の表情はうかがい知れない。カットする位置が数mmズレただけで、せっかくの美しさが無に帰してしまうこともありうる。

しかしこの石は無駄な凹凸もなく、余分なマトリックスもない。小寺いわく、非常にバランスの取れた“美人の石”だ。

「ランダーブルーはいくつも取り扱ってきましたが、その中でも特にクオリティが高く稀少なサイズ。手元のランダーブルー自体も少なくなってきた中で、このような状態のいいランダーブルーに出会えることは、一生に一度あるかないかです。世代を超えて引き継いでいただきたいジュエリーです」

ターコイズコレクターでもある小寺が、販売後の行方も気にするほどのランダーブルー。たくさんのジュエリーとともに身につけても、舞踏会の主役のように誰もが目を引かれる“美人”だけに、あなたのコレクションたちの“嫉妬”にもご注意を。