天賦の才。
チャールズ・ロロマを語るとき、彼や彼の作品そのものを表すのに多くの言葉を費やす必要は無いだろう。曰く、天才。曰く、伝説のカリスマジュエラー。しかし、選ばれたどの表現ですら、本当に彼の世界のすべてを表す事が出来ているかには疑問が残る。
その作品は当時、まさしく唯一無二。つねに新しい素材や技法を取り入れ、どこまでも自由な発想、そして時には着用すら難しい冒険的な表現手法でインディアンジュエリーの壁を、いともたやすく乗り越えてきた存在。
天が与えたのは、類い希なる美意識と、それを現実界におけるジュエリーとして顕現させる事を可能にした技術と情熱。
それがチャールズ・ロロマが世に出た1950年代半ばから現代に至るまで、未だ超えるもの無き最高峰のジュエリーアーティストのひとりとして君臨せしめている理由なのであろう。
チャールズ・ロロマが本格的なジュエリー作りに取り組んだのは1955年頃と言われている。当時34歳だった。
作品作りを始めた当初はトゥファ・キャスティングと呼ばれる、火山灰にシルバーを流し込む技法を多用し、多くの名作を残している。トゥファ・キャスティングで作られた作品表面に現れる砂地模様のような質感は独特であり、主に19世紀頃からナバホ族が製作する作品などに多く見受けられるものである。しかしチャールズ・ロロマは単なる伝統技術の模倣をするのでは無く、トゥファ・キャスティングを磨き上げていく最終工程において、彼独自の解釈を盛り込むことによって、そこから更に一歩踏み込んだ独自のサーフェイスを生み出していった。
ホピ族であるチャールズ・ロロマにとって他部族の伝統的技術を自身の作品に取り込んでいく事に対し、いかなる想いがあったのか定かでは無いが、少なくとも一般的なトゥファ・キャスティングによって作られた作品とチャールズ・ロロマのそれとは、まさしく隔世の感すら漂う程、洗練された違いを感じさせる仕上がりになっている。
技法や仕上げの僅かの差が、“印象”にとっては、大きな差になっていく。
そのことを十分に理解していたチャールズ・ロロマは、その後、インレイと呼ばれる多種多様な石や木材などを組み合わせた、緻密で構築的な作風へと移行しはじめていく。
パリ、沖縄、韓国、ペルー、フィリピン、など、世界各地を旅する中、つねにチャールズ・ロロマの心を捉えていたのが、新しい発見、新しい出会いであったという。当時、ラピスラズリや黒檀をインディアンジュエリーに使っていた作家は皆無であった。そんななか、ジュエリーアーティストとして脂がのってきたチャールズ・ロロマは積極的に業界の既成概念を超えた作品作りに取りかかっていく。
身につけられる彫刻。その異名を取るロロマ作品にはインレイの技術が不可欠である。一見すると散逸的な思いつきでリングやバングルなどに石がセッティングされているように感じるかもしれないが、一つの作品を手に取り静かに眺めてみると、そこにチャールズ・ロロマならではの解釈とメッセージがゆっくりと浮かび上がってくる。
それぞれの石が持っている色、形、質感、それらの要素を一つのジュエリーにセッティングした時にはじめて現れる決定的な印象。余人をもって代えがたいチャールズ・ロロマの美の世界が、たったひとつのジュエリーの中に宇宙となって込められている。
大地から生み出された鉱物や植物のみで形作られているその作品からは、それがもはやアートとしても、ジュエリーとしても完成された、ひとつの世界そのものなのであるという事を理解することが出来るだろう。
このリングは彼の代表的な作品の一つで、ターコイズとともにラピスラズリ、ピンクサンゴを精密に細断し、セッティングしているもの。チャールズ・ロロマはインディアンジュエリー作家で初めてラピスラズリを使ったことでも知られている。
インディアンジュエリーの素材というと、それまでは貝、サンゴ、そしてターコイズが使われていたが、チャールズ・ロロマはそこに新しい素材を取り入れる事によって、作品としての存在感や表現の幅を著しく広げる事に成功している。
本作品に使用されている極めてクオリティの高いローンマウンテンは当時、チャールズ・ロロマが好んで使っていた石のひとつ。硬度の高さや、やや滲んだように入るマトリックスはロロマ作品にとって不可欠な素材のひとつである。
ゴールドの土台に映える透き通るようなオールドローンマウンテンに、ピンポイントで射し込まれるラピスラズリ特有の紺に近い青。そして暖かみとやさしさを感じさせるピンクサンゴの赤によって作品の世界観として地球の鼓動を宿すことに成功している名作。
チャールズ・ロロマとローンマウンテンとは切り離すことが出来ない程の存在。特に中期以降の作品の多くにはハイグレードなローンマウンテンが使用されている事が多く見受けられる。特に彼が好んで使っていたのは、硬度の高い、真っ青な青が特徴的な石。チャールズ・ロロマの人間味溢れる人柄を象徴するような、透明感溢れる青いターコイズは、作品にとって主役となる事もあれば、作品全体を引き締めるための名脇役として活用されることもある。
作品の製作中に、どうしても石が気に入らないときなどは、真夜中でも車を飛ばして当時のローンマウンテンの鉱山主を訪ねたという逸話も残っている。
石の魅力を最大限に理解し、それを損なうこと無く自らの美の極致を表現するための素材とすること。チャールズ・ロロマにとってのターコイズは原点でもあり、また、自身の世界観そのものでもあったのかも知れない。
チャールズ・ロロマを語るとき、多くの言葉を費やす必要は無いだろう。曰く、天才。曰く、伝説のカリスマ。その才能が生み出した作品を語るのに万の言葉を費やしても、陳腐に過ぎない。ただ、そこにある、圧倒的な美の極致。
「身につける事ができる彫刻」を自らのものとして味わえる機会は、決して多くはない。
■Category: | Ring |
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■Artist: | Charles Loloma |
■Origin: | Lone Mountain |
■Size: |
12号 ※このリングは女性用に作られたと言われており、男性だとピンキーリングサイズとなります。 |