青空のかけらか、海の破片か。ネイティブアメリカンたちはネバダの岩山でターコイズと出会うべくして出会い、精霊の力をその身に宿すため、装飾品として発展していった。インディアンジュエリーが「商品」として彼らの生活を支えるビジネスになる、はるか以前の話だ。
ターコイズはいわば、自然とともに生きるネイティブアメリカンの心。優しく淡いグリーン、抜けるようなブルー。猛々しくも慈悲深い彼らを象徴するかのような、不思議な意味を持っている。
「ダイヤモンドなどの宝石は同じようなものがいくらでもあります。でも、ターコイズは自然石。同じ顔の石はひとつとして存在しません」
そう語る小寺康友が、10年以上前に偶然出会った稀少サイズのアパッチブルーにも、そんなネイティブアメリカンの気持ちが乗り移ったかのような、怪しくも気高い光を放っている。
アパッチブルーは、21世紀に入ってから本格的にその名を知られることになった新しい産地のターコイズだ。2003年にオッティソン兄弟がキャンデラリア山脈でその鉱脈を見つけ、3年をかけて採掘。実はそれ以前から、小寺は彼らとコンタクトを取ってきた。
「ランダーブルーを探して現地を回っていた2001年頃でした。袋いっぱいのランダーブルーを持ってネバダを訪れた時に、彼らと知り合って石を見せたんです。それまで『茶色のウェブ』の入ったものがターコイズだと思い込んでいた彼らは、ランダーブルーのような『黒のウェブ』に価値があることを知らなかった。『これが“本物の価値”があるターコイズか』と仰天していました」
しかし、1970年代にはすでに近隣のナンバーエイトやランダーブルーなどはあらかた掘り尽くされていたこともあり、彼らが掘った石もなかなかいいものは出てこなかった。
「それで、『黒いマトリックスが入った石を探した方がいい』とアドバイスしたんです。『いい石が出たら買う』と約束もして」
アパッチブルーが採掘されたのは、その数年後の2003年頃。ターコイズの脈を追った彼らは、ダイナマイトやブルドーザーを用いて、文字通り命がけで下へ下へと掘り続けた。硬い岩盤をえぐるように掘り進めていくため、いつ天井の土砂が落ちてくるかわからず危険度が非常に高い。そんな環境も、アパッチブルーの希少性を高めている理由とされている。
そして、小寺が再び彼らのもとを訪れたのは2006年のこと。
「『いい石が出たから一番に見てくれ』と私を呼んでくれたんです。粒も大きくて質のいいターコイズが50粒ほど採れました。今回の石もその時買い付けたもののひとつです」
先端部分は複雑に絡み合ったマトリックスの中に、かすかにブルーが織り込まれている。そこからブラックゴールドの稲光が石の中を駆け巡り、滴になるつれて幾何学模様のようなロイヤルブルーが現れる。
特に、このブルーの領域が、幾層にも重なり合ったような遠近感を持っているところが、ナバホの巨匠たちが生み出したクラシックジュエリーとは一味も二味も違う魅力。まるで深い海底から陽光を望むかのように揺らめく。
このアパッチブルーが、ターコイズブルー一色の石と比べてかなり通好みであることに異論はないだろう。小寺はそんな石を「縁がある人でないと付けられない石」と評する。
「ターコイズは本当の意味でのパワーストーンですから。水晶などとは違う、ネイティブアメリカンたちが精霊が宿ると信じて身につけていたもの。このアパッチブルーのような石と出会えることは、ジュエリーデザイナーとしても光栄ですし、身につけられる人もおのずと決まるはずです」
ドロップ型のデザインは、ターコイズを整形する「ストーンカッター」と呼ばれる人間のイメージだろうと推測する。
「ストーンカッターがイメージすると、石の形にかかわらずその形になってくるものなんです。ハートにしたいと考えているとそういう形になる。だから、この石は滴のようなものを思いながら切っていったんでしょう」
そんなストーンカッターの想いが込められた大粒のターコイズをしっかり護り支えるために、力強く包み込むような「ヤスベゼル」を採用。30mmのターコイズでも普段使いになんの心配もいらない。
気が遠くなるほどの悠久の時を経て、小寺の手で顕現したアパッチブルー。その滴が示すものは、天からの恵みの雨か、戦いで流れた汗か、あるいは悲しみの涙か。このリングを手にした者だけが、その「正解」を選ぶ権利を持っている。
独特の雰囲気を醸し出している大きなアパッチブルー・ターコイズのオリジナルリングです。
ハイグレードのアパッチブルーはランダーブルー・ターコイズと見紛うようなマトリックスと色合いを持ちます。ただしあまり大きな石が採れませんので、このような大きさで整った形の石は貴重です。
この石の上部には細かな黒のマトリックが入っています。下半分は上部とは対照的なマトリックスで、二つの世界を併せ持ったような独特の雰囲気があります。
石の大きさは最大 縦 約31mm、横19mm、リングの重さは33gです。
コインシルバーと同じ成分の銀板を叩いてタガネとヤスリでリングを手作業で制作しています。
好評のヤスベゼルです。
■Category: | Ring |
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■Artist: | Yasutomo Kodera |
■Origin: | Apache Blue |
■Size: | 21号 |