18世紀のヨーロッパにおいて、それまでの写実的で完全主義的な堅苦しさから解き放たれた文学や芸術を指すムーブメントが起こった。個人の感情や自由さを尊重し、宗教的な規律から解き放たれ始めた時代を指して、「ロマン主義」という。
その言葉の語源は「ローマ」。人が人を想う恋心や、性別や年代を問わず相手を愛おしく思う愛情、嬉しさや悲しさなどの心象を投影した情景を言語化する際に、「ロマンティック」という言葉が使われ出したのもこの時代と言われている。
文明と戦争と宗教が折り重なって発展してきたヨーロッパの歴史上、「ローマ」という存在は文化的にも民族的にも、人々の心の中に憧れや華やかさを象徴するものとして根差しているのだ。
このアンティークコインが埋め込まれたリングは、そんな“ロマンティック”なインスピレーションから生まれた。SkyStoneの小寺オリジナルブランド「Sky Blue Hawk」の中のアンティクア/クラシックシリーズのひとつだ。
「男性が小指にはめたらカッコいいリングが欲しいと考えたのが、最初のきっかけでした。雑誌『LEON』とのコラボレーションの中で、丸みを帯びてポテっとした印象から、『ポテリング』という愛称で人気に火がついたんです」
埋め込まれているのは、古代ローマ時代に製造された馬のレリーフが刻まれた純銀コインだ。
「年代は定かではありませんが、およそ紀元前300年から200年頃にヨーロッパで用いられた銀貨と言われています。
当時流通していた貨幣は青銅がほとんどで、純度なども時代や地域によってさまざまでした。銀貨は高貴な人々が使用しており、箱や袋に保管されてあまり表に出されることがなかったのでしょう」
その証拠に、馬のレリーフの部分が削れないまま、現在もその造形を保ち続けており、アンティークコインとしての価値も併せ持っている。
アンティークな価値のあるコイン自体、もう手に入らない資産価値の高さもあるが、小寺はそれよりも2000年以上を経てなお褪せないレリーフの「馬」のデザインに惹かれた。
馬が象徴するものは、戦争においては「力」、政治においては「権力」や「富」。人類の移動の速度と時間を大幅に変え、行動範囲の拡大にも大きく貢献した。
ただし、アンティークコインのデザインは、当時の神々や権力者たちの肖像、風俗、空想上の生き物などが多く、身近な生物が刻まれるのはむしろ稀。ダイナミックな表情を持つ馬が刻まれているのも珍しい。
「ローマでもギリシャでもアメリカでも日本でも、馬のイメージは共通しています。高貴で高潔な存在であり、権力と力の象徴でもあり、勇気や闘争心を駆り立ててくれるもの。そして、人間に常に寄り添うパートナーとしても愛されてきました」
そういったモチーフからイメージを膨らませてできたのが、コインを埋め込んだこのリングだった。
「丸みを帯びた金の指輪は、身につけた時に目を引きます。シルバーのコインを引き立てるように、わざと22Kのゴールドを選んで色味を強くしました。アンティークコインのため、今や2つとして同じものがなく、世界で1点だけのリングです」
22Kは叩くことで傷がつきにくくなる効果と、光の当たり方によって拡散する効果を狙って、「ハンマリング」の加工を施した。ヨーロッパのジュエリーにはこうした技法のものも多く、特に日本ではハンドメイド感が支持されている。
裏側のデザインも見られるように、あえて穴を開ける遊び心も忘れない。
ヨーロッパで装飾品としてのジュエリーが身につけられ始めたのは、実はそれほど古くはない。古代で言えば紀元前300年頃から長く続くローマ帝国時代で、神話と史実が折り重なったこの時代は衣服もまだまだ簡素で技術もなく、シンプルな装飾品が多かった。
だからこそ、小寺はこの時代にロマンティックさを感じている。
「ジュエリーデザイナーは、いかにロマンチックなものを生み出すか、です。日本人の感覚からすると、ローマ時代の雰囲気やデザインはロマンチックに映ります。僕がインディアンジュエリーに感じたロマンチックさも、それに近いかもしれません」
イメージしたのは、ローマ時代の王が息子などにプレゼントするリング。男性の小指サイズは、女性ならどの指にも嵌められ、カップルで楽しむのにも最適だ。
「ティファニーもエルメスも、ブランドや素材の価値以上に、それらを身につけて生活した時のストーリーをも提供していると思うんです。
日本人ジュエリーデザイナーとして、そういった“ロマンティックさ”を感じる古代ローマ時代のイメージを、たくさんの人に楽しんでほしいですね」
コインリングも、一期一会の出会いがすべて。人類史を軽々と超えるような歴史ロマンと、コインのレリーフが物語るストーリーに、少しだけ小寺がエッセンスを加えた「Sky Blue Hawk」を、ぜひ楽しんでほしい。
馬がレリーフされた古代硬貨を埋め込んだK22 ゴールドリング
小寺康友のオリジナルブランド《Sky Blue Hawk 》のAntiqua /classicシリーズ。
男性向けファッション雑誌 【LEON】で取り上げられ、人気に火がついたAncient Coin(古代硬貨)をセットしたリング。
Ancient Coinの持つ独特のオーラと、深い色合いのYellow Goldが、日常の何気ない仕草に意味深でどこか色っぽい雰囲気を漂わせる。
小ぶりなサイズ感で品も良く、どんなTPOでも邪魔にならない。
話題作りにも一役買うアイテム。
1点につき1個の原型をファイルワーク(ヤスリがけ)で、コインとのバランスと指へのフィット感を見ながら繊細に造形した一点もの。
このリングにはハンマリングが施され、当たった光が乱反射してキラキラと輝く。
リングの重さ:約16.3g
■カテゴリ: | Ring |
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■作家: | Yasutomo Kodera |
■産地: | Ancient One |
■サイズ: | 15号 |