アメリカンターコイズの歴史には様々な山(鉱山)が登場する。そして、ターコイズコレクターたちには、それぞれに好む山がある。
中でも、ナンバーエイトは3大アメリカンターコイズの中でも、希少価値では群を抜いている。というのも、すでに存在しない山だからだ。
ナンバーエイトが初めて採掘されたという記録が残っているのは1929年。その後の4年間で約3トンものターコイズが採掘された。そこからしばらくめぼしい石は見つからなかったが、1950年代に大きな脈に行き当たった。
しかし、品質のいいターコイズが見られたのはこの頃まで。1976年、当時採掘権を持っていた金の採掘会社が、山ごと切り崩してしまったのだ。
ターコイズは鉱脈の浅い場所からしか採取できないと言われる。そのため、金鉱としての価値を優先した彼らは山を崩してしまった、というのが歴史上の事実だ。まだ見ぬナンバーエイトが眠っていたかもしれない……という想像は夢物語でしかない。
そしてだからこそ、ナンバーエイトの価値は、もう二度と手にすることができない石として21世紀の今でも上がり続けている。
今回取り上げるナンバーエイト・プラチナリングにも、様々な逸話がある。この石にまつわる物語を紐解いてみよう。
このプラチナリングは、2021年に小寺康友が製作したオリジナル作品だが、彼が好むヤスリやタガネを用いた力強いベゼルとは一線を画す、丸みを帯びた滑らかなデザインが印象的だ。そのデザインのルーツは、アメリカの伝説的ジュエリーデザイナー、フランク・パタニアという人物だという。
「パタニアは、1899年にイタリアに生まれて渡米し、若くしてシルバースミス(銀工房)に弟子入りしたジュエリーデザイナーです。そこで彫金技術を修めたのち、アリゾナのツーソンという街で、ネイティブアメリカンたちにその技術の基礎を教えた人物として知られています」
それまでのネイティブアメリカンのジュエリーは、「ナジャ」や「スクラッシュブロッサム」といった古典的で伝統的な意匠のペンダントが主流だった。そんな時代に、パタニアが彼らに西洋的なデザインや技法を伝え、ジュエリーを作らせた。そしてその技術を身につけたネイティブアメリカンたちが、それを各地の部族へと広めていったのだ。
それからは部族ごとに天才的なデザイナーが様々な作品を生み出していったが、パタニアはいわば、20世紀のインディアンジュエリーの礎を築いた人物とも言える。
実はこのナンバーエイトの石は、小寺がパタニア・ファミリー2代目の時代から購入を切望し続け、3代目になってやっと譲ってもらえた石だ。譲り受けるまでに実に30年かかっている。
「1950〜51年頃、最も濃いナンバーエイトが出た時代の石です。ナンバーエイトというと淡いスカイブルーのイメージが強く、こんな濃い色の石はなかなか出てきません。特にナンバーエイトは、これから価値が上がることはあっても下がることはない。小指の先ほどの小さな粒ですが、しっかり見極めました」
自身もターコイズコレクターであり、ターコイズディーラーとして現地でのコネクションを築いてきた小寺だからこそ、こうして海を隔てた日本の地で、貴重なナンバーエイトが日の目を見ることとなった。
そんなパタニアの孫が温めていたナンバーエイトを、小寺はパタニアが作ったジュエリーのイメージに沿わせた。
「ローンマウンテンが“王”だとすると、このナンバーエイトはいわば“女王”。以前紹介したアイランドリングのように無骨で権威的な輝きに対して、さざなみの中に漂う美しさ、とでも言えばいいでしょうか」
その“表情”をのぞき込んでみても、これほど見事なスパイダーウェブとブルーが調和した石にはなかなかお目にかかれない。指に通して少し引いてみると、今度はマトリックスとブルーが調和して濃紺や紫にも見える。そして、慎ましやかなその石を、ベールで包み込むようなラウンドしたベゼルが支える。
「プラチナの白さによって、このナンバーエイトの青さを引き立てたい」という小寺の狙い通り、さりげなく、しかし存在感を主張できる珠玉のリングが生まれた。そしておそらく、これほどの石はこれからなかなか出てくることはないだろう。
荒涼とした大地で見つけ出されてから、70年もの間、その美貌を誰にも見せることがなかった“女王”は、彼女とともに歩めるパートナーとの出会いを待ち続けている。
濃いスカイブルーに見事なブラックスパイダーウェブのNumber Eight プラチナpt950リング
ターコイズフリークの間で最も人気の高い石といえばナンバーエイトで、絶対に手に入れておきたいアイテムだ。
良質なNumber Eightは、皆の目を惹きつけるパワーを持っている。
その気品あるスカイブルーの美しさから、ターコイズのQueen や Princess とも称される
3大ターコイズのひとつに数えられ、採掘開始から5年間で約3000kgの採掘量を誇ったが、1976年に権利移譲により山ごと崩されたため、すでに採掘できない。つまり、現存するナンバーエイトがすべてということだ。突き抜けるような鮮やかなスカイブルーと、そこに張り巡らされる黒や茶色のマトリックスのコントラストが人気の理由。蜘蛛の巣状の「スパイダーウェブ」が均等に入った石が多いのも特徴となっている。
しかし他のターコイズ同様に、安定化加工した人工着色の石が沢山、出回っている。
その様な人工加工によって、まるで厚化粧された様な石はどこか不自然で、石の深みやパワーが感じられない。
このリングの石は凄い!
まさに天然の深みのあるブルーとブラックウェブが見事に絡んだ、コレクターが涙が出てしまうような銘石だ。
この石は1950〜51年と非常に限られた期間に採掘された、とっておきのスーパーハイエンド。
この石は某有名ジュエラーの一族の家宝とも言えるコレクションのひとつ。
このコレクションを入手するために、小寺はオーナー2代に渡り30年間も交渉し続け、信頼関係を築いて、やっと入手できたのである。
Number Eightでもこの色合いの石は、ゴールドよりもシルバー色が似合う。
リングは純度の高いプラチナ(PT950)で、ずっしりとした心地よい重さと、銀とは違う艶っぽい贅沢な輝きを放っている。
Yasutomo Koderaの名を世界に知らしめたFile Work(ヤスリがけ)で、一つのリングに対し一個の原型を制作している。。
石からイメージと大きさからリングのバランスを見ながら造形。それによって曲線の美しさと指に吸い付くようなフィット感が生まれる。
プラチナの艶っぽい輝きと、小寺の手による滑らかなリングの造形が、この石の持つエレガントな青色を引き立て、内包されたパワーを引き出している。
石の大きさは最大 縦: 約9mm、横:約5mm
リングの重さ:約28g。
男性であればピンキー(小指)に着けるとダンディーだ。
■カテゴリ: | Ring |
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■作家: | Yasutomo Kodera |
■産地: | Number Eight |
■サイズ: | 12号 |