古代エジプトでも、インディアンたちの神話のなかでも、神秘の力を宿す宝石として語られてきたターコイズ。不思議な青い宝石は、古代から人々を惹きつける独特の魔力をもった石だった。
トルコ石とも呼ばれるターコイズは、世界最古の宝石といわれる。紀元前3000年頃の古代エジプトの王墓からは金にターコイズをあしらったブレスレッドが出土しているし、ツタンカーメン王の副葬品にもターコイズは使われていた。メソポタミアでもターコイズのビーズが発掘されている。古代文明の時代からターコイズは宝石として人々に愛されてきた。
なかでも、ターコイズに神秘的な力を見出したのが、アメリカのインディアンたちだ。彼らの祖先であるアナサジ族の古代遺跡からもターコイズが見つかっている。ナバホ族の神話では、ターコイズは聖なる力をもった神の石だ。
アメリカ南西部の荒涼とした砂漠地帯で、美しい青い石を見つけた彼らは、空のかけらか水の塊か、いずれにしろ神からの特別な贈り物だと考えた。
狩りの成功や豊作を祈る儀式でも、雨乞いの儀式でもかならずターコイズを神への捧げものとした。
神の力を宿した石であるターコイズを身に着けることは、邪気から身を守り幸運を呼ぶ。そして、この石を子どもに引き継ぐことは、石の持つ力を子どもに贈ることになる。このようにして彼らは代々、ターコイズを親から子へと渡して大切にしてきた。
先祖伝来のターコイズを銀と組み合わせたインディアンジュエリーが生まれたのは、1880年ごろといわれる。銀細工を学んだインディアンたちは、アクセサリーや日用品を作り始めていたが、一説には、そうした銀細工師のひとり、ナバホ族のスレンダー・メーカーがターコイズをシルバージュエリーにはめたといわれている。
以来、黎明期であるファースト・フェーズ、白人のトレーダーに広く売られるようになったセカンド・フェーズを経て、ジュエリー作家たちは着実に腕を上げていき、天才的な作家たちが数多く現れアートへ昇華したコンテンポラリーの時代、ターコイズを用いたインディアンジュエリーは、世界中でその価値が高く評価されるようになった。
こうして、幸運を呼ぶ石であるターコイズは、世界中の人々にジュエリーとして身につけられるようになった。
ビーズ状のターコイズを使ったネックレスとイヤリングは、インディアンの正装だった。
インゴットとは、銀貨などを溶かしてつくられたもので、1930年代の作品。オールド・バーナムのターコイズがはめられている。
ターコイズは、宝石としてはあまり硬度が高くなく、表面は無数の穴が空いている多孔性だ。そのため、そのままジュエリーにするには硬度が足りないもの、表面の穴から皮脂が入ることなどで変色が起きやすいものがほとんどで、市場に出回る石の多くは樹脂を注入して硬度を高める、彩色するといった加工処理がされたものだ。
ナチュラルとは、そうした加工をしていない、産出されたままの石を指す。表面の穴が少なく硬度が高い上質な石だけが、ナチュラルでジュエリーにすることができるため希少だ。全体のわずか数パーセントしかないとされ、価値もとても高い。
その上、アメリカ南西部の名の通った鉱山のものとなると、非常に数が少ない。こうしたクラシックな鉱山は、閉山したところも多く、今後数十年の間には、有名な鉱山の上質な石がほとんど出回らなくなるともいわれ、投資対象になってもいる。
一般に、ナチュラルかそうでないかを見分けるのは、さまざまな加工処理(後述)があることから難しいとされている。
当店では、アメリカの代表的な鉱山のナチュラルを中心としたジュエリーを扱っているが、そうした鉱山のほとんどに足を運び、環境や土質を把握して、鉱山ごとに産出されるターコイズの色味のバリエーションや模様などの整合性をみて判断している。
こうした知識を増やしてきたお陰で、本場アメリカでも石の知識や鑑定が認められ、およそ100年の伝統を誇るサンタフェ・インディアンマーケットでは審査員を務めさせていただいたりもした。それでも難しい部分があり、情報が少ない石の場合は、長く手元に置いて経年の変化を観察するなど慎重に見極めている。
ナチュラルかどうかは、このように判断が難しく、入手するなら信頼できるところから買うという点に尽きるだろう。
ターコイズの宝石としての価値は色や硬さ、いつどの鉱山で採掘されたか、採掘された際の形状、マトリックスと呼ばれる不純物の入り具合など、さまざまな要素により決まる。
いい石の条件として、発色がよく色が濃い、母岩が線としてターコイズのなかに入って模様を形成するマトリックスが、薄く入っているという点があげられる。
色が濃いということは、銅が強いターコイズで、密度がある硬い石となります。逆に色が薄ければ銅が少なく表面の穴も多く、軟らかい石に。穴に皮脂などが入って、鮮やかな青は緑に変色が起こしやすくなる。
マトリックスの入り方でよく知られるのが、網目状に細い線が入るスパイダーウェブ。ターコイズは小さい粒子のほうが硬く、それが母岩によりひとつの塊となったときにスパイダーウェブが形成される。こうした石は非常に硬く、ジュエリーとして長く愛用してもほとんど傷や変色が起きない。マトリックスが入らないものは軟らかい石になってしまう。
左がウイドーメーカーで産出された石、右がブルーダイヤモンドの石。黒い部分はチャート。原石を削り出したままのものがナチュラル。
ローンマウンテン、キャンデラリア、ナンバーエイト、ランダーブルーの石。それぞれに個性があるが、細かくて均等で、線も細いマトリックスがいいとされる。
鉱山によって環境が違うため、産出されるターコイズが特徴あるものとなる。アメリカ南西部では、ネバダ州がターコイズの聖地といわれているが、その三大鉱山は、ターコイズの産出地のなかでも別格とされている。
その鉱山は、ナンバーエイト、ローンマウンテン、ランダブルーだ。質が高く色や模様も美しい石が産出されたことで、世界的な人気を誇っており、価格も高い。
希少性ではランダブルー、硬度の高さではナンバーエイトだが、粘りのある硬さでジュエリーにもっとも向いているのは、ローンマウンテンだ。
三大鉱山とそのほかの代表的な鉱山から産出されるターコイズの特徴は次のようなものだ。
チャールズ・ロロマをはじめ、巨匠アーティストたちに愛されてきた3大ターコイズの一つ、ローンマウンテン。1970年代には最盛期を迎えたが、危険な採掘活動により鉱床が破壊され、現在は緻密な採掘計画のもと細々と採掘が行われている。
採掘量の少なさによる希少性に加え、鮮やかで深い青色、変色や色落ちが殆どない硬度、そこから齎される艶により、石の人気は非常に高い。少しだけ緑に転んだ青色へ、黒・茶・金茶のマトリックスが走る独特の見た目にファンは多く、最上級グレードの石は「ゴールデンウェブ」と呼ばれ親しまれている。
小寺が最も愛するターコイズ。
ターコイズフリークの間では最も人気の高いナンバーエイト。3大ターコイズの一つに数えられ、鉱山も一時は採掘開始後5年間で約3000キロの採掘量を誇る一大産地だった。しかし、76年には権利移譲により山ごと崩されたために、今ではもう採掘することはできない。
澄んで突き抜ける空にも近いクリアで鮮やかな水色へ、シャープに張り巡らされる黒から茶色のマトリックスのコントラストは非常に美しい。蜘蛛の巣状の黒いマトリックスが均等に入った石が最高級とされている。
ランダブルーは比較的新しい鉱山だ。にも関わらず、3大ターコイズにも数えられる人気を誇るのは、ひとえにその石の個性にある。
塊状で採掘できるランダブルーは、殆どすべての石に黒々としたスパイダーウェブがかかっているという、非常に珍しい特徴を持つ。深い青と漆黒のコントラストが美しく、最高級グレードになると全体が紫がかって見える。希少性も高く全採掘量はわずか40キロ程度しかないランダブルーは、ターコイズの中でも特に高値で取引されている。
1932年に、標高2100メートルという高地で見つけられた鉱床で、今も小規模ながら採掘が続けられている。水色から濃い青の石に赤いマトリックスが入り、水晶が混じることもある。
殆どの石が塊状で、成分にアルミニウムが多く含まれることから白みが強く、透明感のあるミルキーブルーの石が出来る。ハイグレード以上のものについては、茶の強いマトリックスが入っていたり、目の覚めるような青色の石が採掘されることもあり、採れる石の幅が広いことも特徴。
多くのターコイズが採掘されるアリゾナ州の中でも、飛び抜けた存在感と人気を併せ持つのがビズビーだ。
鮮やかで深い青色の石に赤い粒子が混じっていることから、青空に紫色の霧がかかったように現れる独特のマトリックスが特徴的。赤黒く煤けたような斑模様や筋模様が一面に現れた石は「スモーキー・ビズビー」と呼ばれ、非常に人気が高い。石の色も透明感のある明るい青から濃い青までと幅広く、緑がかった色もある。グレードが上がることに光沢と青の深みが増していき、硬度が高いのも持ち味だ。
別名ティンバーライン、インディアンマウンテン。ネバダ州ランダー群の標高の高い場所にあり、1970年にショショー二族の羊飼いが発見した。塊状で採れ、きれいな水色の石に黒、茶、黄茶色のマトリックスの色と入り方が美しい、たまに丸い水晶の粒が入ることもある。チャールズロロマもジュエリーに愛用した。
グレードが上がるごとに、ターコイズ自身の青は澄んで透き通るような発色になり、黒いマトリックスも均等になるインディアンマウンテンは、1970年ごろからネヴァダ州の中央東部、ランダー群で採掘が始まった。ショーショーニー族の羊飼いが、羊の放牧中に偶然鉱脈につまづき、発見されたと言われている。
ネバダ州のランダー郡にあり、最盛期では州内でもトップクラスの採掘量を誇っていた。ブルージェムの鉱床は大半が脈状であり、約2センチの厚さで採れるほど硬い石も出ていた。名前の通り、透き通るようなブルーが魅力で、トップグレードのものとなると目の覚めるような鮮やかな青色が特徴的である。「ロイヤルブルー」とも呼び親しまれ、現在でも人気が高い。鉱脈全体では、緑色から青色まであらゆるカラーバリエーションが採れることでも有名だ。
上が脈状。下が塊状の原石。塊状のものは「ナゲット」と呼ばれる。
ターコイズの採掘では、まず岩肌に細く浮かび上がる脈状のターコイズを探していく。脈状のものは、母岩の裂け目を埋める形で生成されたもので、色も薄く硬度も弱く、割れやすい。だた、掘り進めていくともう少し厚みが出てくることがある。
より価値が高いのが、ナゲットと呼ばれる塊状で採掘されるもの。母岩のなかで圧力を受けながら少しずつターコイズの粒子が成長してきたもので、硬度が高くなる。三大鉱山でも、上質な石はナゲット状で採掘されたものだ。
石と石の隙間に生成された脈状のターコイズは、その隙間が広いほど圧縮されず、5ミリ以上の厚みがあると硬度も弱く、色も美しく出ない。
こうした石や、さらに密度が低いチョークと呼ばれる石などは、樹脂やプラスチックを注入したり彩色したりといった加工処理をほどこされることになる。
加工方法はいくつかあるが、もっとも一般的に出回っているのは「ステイビライズド」で、表面に空いた穴に高圧で樹脂を注入し硬度を上げる方法。色が薄い場合は、青い染料を加えて注入する「ダイド ステイビライズド」という方法がある。とても小さい石などは、一度粉末状にしてから樹脂や塗料と結合させる「リコンステチュテッド」という方法が取られる。ほかに薬品や電気を使う加工「エンハンスド」というものもある。また、青を濃くしたり、マトリックスを黒くしたりする彩色をほどこす「ダイド」、古代から行われている表面にワックスや油を塗りこむ「ワックスド」といった加工方法もある。
ターコイズを手に入れる際には、こうした加工処理をほどこしたものがほとんどだという点に気をつける必要がある。繰り返しになるが、信頼できるところで入手するという方法以外にこれを避ける方法はなかなかないといっていい。
スカイストーン トレーディングでは、長年の経験と現地の鉱山主やジュエリー作家、コレクターといった人々とのコネクションを生かして、信頼性の高い希少なターコイズをあしらったジュエリーや、著名な作家の作品を日本の皆さまに紹介している。世界でもここだけというクオリティーのターコイズジュエリーをそろえているので、ターコイズの魅力にはまった方も、興味はあるけれど、詳しくわからないという方も一度相談してみてほしい。
スタビライズドは硬度を上げるだけでなく、石の色を濃くするためにも使われる。